こんにちは! ヨス(プロフィールはこちら)です。
今回は、名前を変えずに結婚できる制度を心待ちにされているというユリ さんにインタビューさせていただきました。
テレビなどで報道されている声とは違った意見なので、非常に興味深いと同時に、その切実さが伝わると思います。
目次
ユリさんについて
ユリさんについて軽くご紹介しておきます。
ユリさんには男きょうだいがいません。このままでは家の名前が途絶えてしまう、誰か名前を継いでくれたらなぁという祖父母や父の淡い期待を感じながら育ちました。
ところが、結婚した相手も長男で、相手に姓を変えてもらうことも困難な状況だったんです。
今回は夫婦別姓にならないと困るケースとしてユリさんに詳しくお話を聞いてきました。
ユリさんが夫婦別姓を望んでいる理由
ヨス
ユリさんは、夫婦別姓をされていますが、どのような形でされていますか?
わたしの場合は戸籍上はわたしの姓が変わっていて、「旧姓の通称使用」という形ですが。
ユリ
私も「通称使用」です。
今思えば、結婚当初に「事実婚」にしておけば良かったのかもしれませんが、当時(20年ほど前)の私は事実婚という言葉すら知りませんでした。
仮に知っていたとしても、それが許されるような家風ではなかったと思います。
ヨス
なぜ夫婦別姓という選択をされたのでしょうか?
ユリ
夫も私も自分の名前を変えたくなかったので、夫婦別姓にせざるを得なかったんですね。
私は姉妹の長女として実家の名前を継承したいのです。
ヨス
自分が継がないと家名が途絶えるからということですね。
いつから夫婦別姓をされていますか?
ユリ
私が通称使用を始めたのは結婚して10年以上経ってからです。
別姓制度の実現を待ち望んできましたが、いつまで経っても実現しないので、仕方なく通称使用を始めました。
ユリさんの家族について
ヨス
家名のことについてもっと踏み込んで伺いたいのですが、お話していただけますか?
ユリ
私は姉妹の長女で、父は長男です。
同居する父方の祖父母が、「家名がいずれ絶える」と気にするのを感じながら育ちました。
私自身も名字に愛着を抱いていました。
高校生のとき、家庭科の授業で「夫婦別姓」という言葉を知り、「この制度ができれば」と期待しました。しかし実現しないまま20 代半ばでお付き合いしていた彼氏と結婚しました。
ヨス
お相手の方が姓を変更するということはできなかったのでしょうか?
ユリ
夫は長男です。女きょうだいがいますが、男の子は彼だけです。
結婚前、彼が初めてご両親に私の話をしたとき、「あんた、婿に行くんじゃなかろうね?」と言われたそうです。
それを聞いたので、私も家族も、彼に名前を変えて欲しいと言いだせなくなりました。
ヨス
なるほど。「姓を変えてほしい」と言えない状況になってしまったんですね……。
よくありそうな話ですが、この圧力はすさまじいと想像できます。
ユリ
はい。結婚して私が姓を変え、10年以上経ってから夫に気持ちを打ち明けたんです。
夫は最初とまどっていましたが、私の気持ちを理解してくれました。
しかし夫が名前を変えることは、仕事上や世間体、夫の両親の気持ちを思うとできません。
ヨス
パートナーの方も同じく社会からの圧力があるんですよね。
「夫が姓を変えるべきではない」という圧力が。
ユリさんのお子さんを養子にするという選択肢
ユリ
そうですね。もちろん夫自身だって自分の姓は変えたくないでしょうし。
そのため、現状で私の希望をかなえるには、事実婚か養子という選択肢しかなくなりました。
まず養子について私の母に相談したところ、母は大反対でした。
ヨス
養子というのは、ユリさんのお子さんを、ユリさんのご両親の養子にする……という意味ですか?
お母様は反対されたんですね。
ユリ
はい。相続に関わるということで反対されました。
しかも、母にとっては大して愛着のない名前だったんですね。
だから私がそこまでして旧姓を残したいという気持ちが全く理解できないようでした。
父も、母の反対を押し切ってまで養子を迎えることはできません。
夫も子どもを養子に出すことに消極的でしたし。
ヨス
家族全員が反対されていたら、さすがに無理でしょうね……。
ユリ
そうですね。となると、あとは事実婚です。
事実婚にするには形式上とはいえ、夫と離婚しなくてはなりません。
離婚届を出すことは戸籍上、家族がバラバラになることであり、精神的にも経済的にも私たち夫婦には苦痛でした。
ヨス
「結婚」という状況がほしくて結婚をしたのに、「姓」が要因で書類上とは言え離婚させられるなんておかしいですよね。
そういうお話を聞いていると今の日本の状況がいかに柔軟性に欠けているかがわかります。
自分でもわからなかった「本当の理由」
ユリ
今でこそ、私は自分が旧姓にこだわる理由を「男きょうだいがいない環境で育ったから、名前を継いで欲しいという家族の期待があったから」と自覚しています。
でも、結婚当時の私はこのことに気づいていませんでした。
ヨス
どうなふうに思ってらしたんですか?
ユリ
なんとなく、仕事で男性と対等に働いているのが原因だろう……と思っていました。
メディアでも「別姓は働く女性のため」と言われていましたから。
ヨス
確かにメディアでは「バリバリ働いている女性の名字が変更になるとキャリアが……」という声がよく聞こえてきますよね。
ユリ
しかも、私の周囲の女性たちはみんな結婚で姓を変えており、それで困ったり苦しんでいる様子もなかったので、私もいずれ夫の姓に慣れるのだろうとぼんやりと思っていました。
そのうち別姓制度が実現するかもしれない、という思いはずっとありましたが。
ヨス
でも、仕事をバリバリしていることが理由ではなかったと?
ユリ
はい。数年後、夫の転勤で私は仕事を辞めて主婦になったんです。
それでも夫の姓には馴染めませんでした。
だから今度は、私が名前にこだわるのは「アイデンティティ」の問題? 人並み以上にアイデンティティが強いからなのかと考えました。
ヨス
アイデンティティ問題も「夫婦別姓」を望む声としてよく言われる理由ですね。
名字が変わると「自分が自分でなくなる」という喪失感があるという。
ユリ
ただ、メディアに登場する選択的夫婦別姓を望む女性の多くは「自分のアイデンティティの問題だから子どもの名前にはこだわらない」と言っていました。
でも、私は「子どもの名前」にこだわりがあったのです。
生まれてきた子どもに自分の名前(旧姓)をつけたかったんです。ということは、私が名前にこだわる理由はアイデンティティではない……ということになりますよね。
ヨス
ユリさんは、実家の名前を継承していきたいという気持ちが強いから、子どもに名前を残せないと意味がないということですね。
ユリ
そのとおりです。私は二人の子に恵まれましたが、自分の子どもなのに自分の名前を継承できないことが辛くてたまりませんでした。
ヨス
アイデンティティではなく、自分の姓を次世代に残したい……。
いろんな夫婦別姓を望む方がいますが、これって最も切実な問題な気がします。
少子化で、ユリさんと同じ問題に突き当たる方はどんどん増えてきそうですから。
自分で自分を肯定できなかった苦しい時期
ユリ
でも変なことに、私はその事実(自分が子の名前にこだわるという事実)を自分でなかなか認められませんでした。
ヨス
認められなかったというのはどういう意味でしょうか?
ユリ
家の名前を継ぎたいなんて古臭くて悪い考えだから、自分がそんなこと考えるはずがない、と思っていたんです。
友達から「姉妹の長女だから名前にこだわるんでしょう?」と言われても、猛烈に否定していました。ほんの数年前のことです(笑)。
ヨス
その否定したくなる気持ち、わかります。
ユリ
ですよね? 当時の私と同じような人、他にもいるんじゃないかなあ。
だって別姓に関する報道は仕事とアイデンティティばかりですから。
名前の継承というと「子どもの名前にこだわるのは『家意識』で良くないことだ」、「家名継承なんて家制度の考え方だ、本物の別姓ではない」……というような雰囲気さえありますからね。
私も無意識にそれに影響されていたんですね。メディアの影響力を実感しました。
ヨス
なるほど。「家制度」「家意識」と聞くと大げさに聞こえますが、日本のほとんどの男性ならたいていの場合、普通にやっていることですよね。
結婚しても姓が変わらず、子どもが生まれたらその子も自分と同じ姓になる……って。
ユリさんは多くの男性がやっていることをしたいと思っているだけですね。
ユリ
ありがとうございます。なのに私は自分が悪いんだと思い込みました。自分のこの「悪い考え」を封印しようとしました。
でも子どもが成長すればするほど、苦しさが増してきたんです。
ヨス
それは苦しかったでしょうね……。全然悪くないのに!
ユリ
このまま私の子育て期間は終わってしまうのかと思うと絶望すら感じました。
アイデンティティなら世間の理解は得られるかもしれないけれど、子どもの名前にこだわる気持ちを封印しないといけなくなります。
アイデンティティじゃないとすると、家意識は悪いことだと言われるし……どこにも逃げ場がなかったんです。
本人が気づかないだけで実は?
ヨス
そうなんですか……。世間の理解もなく、自分でも自分を肯定できないって辛いですよね。
でも、ユリさんと同じ問題にぶつかる方ってすごく多いと思うのですが。
ユリさん以外の方で、同じような理由で夫婦別姓を望んでいる方はいらっしゃいますか?
ユリ
実はいらっしゃいます。
多数とは言えませんが、子どもの姓にこだわる方もいらっしゃることが分かりました。
特に切実に別姓制度を望む方々は、子どもの姓にもこだわる方が多いような気がします。
ヨス
やはりそうなんですね。
でも、わたし自身、ユリさんからこのお話を聞いて初めて「そんな理由で夫婦別姓を望んでいる人がいるのか!」と驚きました。
すごく納得しましたが。
ユリ
ヨスさんも驚かれましたか……。
そうなんです。そのくらい数は少ないのです。
でも、もしかしたら、なぜ自分が名前にこだわるのか、その理由に気づいていなかったり、無意識に封印しているだけの人も結構いるかもしれませんよ。
以前の私のように。
ヨス
そうかもしれませんね。
困ったことに本当の理由ってなかなか見えないものですからね。
ユリ
私も、もし主婦にならずに仕事を続けていたら「キャリア女性だからよ!」と今でも言い張っていたような気がします(笑)。
実際、私が知り合った範囲ですが、別姓制度ができたら自分が利用するという「働く女性」たちに兄弟姉妹の有無を聞いてみたんです。
ヨス
そしたら?
ユリ
そしたら、男きょうだいがいない人の割合がとても高かったのです。
このことは、世間にほとんど知られていないのではないでしょうか?
ヨス
マスコミでは、夫婦別姓を望む女性たちは「仕事で不便だから」という声が多いように言われていますよね。
でもその中には、本当は自分の実家の姓がなくなってしまうことへの不安が根底にあるかもしれないということですか?
しかも本人たちもそれに気づいていないと?
ユリ
はい。こういう人は、アンケートなどでは「働く女性だから」に分類されちゃうんじゃないかしら。
でも実は仕事というよりは、名前へのこだわりはその人の育った家庭環境が大きく影響しているんじゃないかな、というのが私の見立てです。
ヨス
なるほど!
「愛する姓が消滅する」という危機感
ユリ
人数的には「働く女性」の方が、「家の名前を継承したい跡継ぎ娘」より圧倒的に多いと思います。
でも切実度は「働くのに不便だから」という人よりも、「家の名前を絶やしたくないから」という人の方が高いような気がしています。
ヨス
そうですね。切実度で言うと、「自分の愛する姓が消滅する」という危機感はかなりのレベルな気がします。
これはマスコミに報道してもらいたいですね。
ユリ
去年、初めて小路雅代さん(「名前を変えずに結婚したい」というネットでの署名キャンペーンを行った方)とゆっくりお話する機会がありました。
その時、私は恐る恐る子どもの名前にこだわる話を打ち明けました。軽蔑されるかな?と思っちゃったんです。
彼女は一瞬考えた後「私も子どもが産まれたら自分の姓を継いで欲しいな。少なくとも一人は」とサラリと言いました。
それを聞いて私は自分が救われた気がしたんです。
ヨス
自分の姓って子どもの頃から馴染みがありますからね。
実はうちの母方の祖母の姓が、数年前に祖母の死と同時に消滅しました。祖母の姓を名乗る人間が親類にもいなかったので。
実は珍しい姓だったので、寂しいなとは思っています。うちの父が姓を変えなかったことが原因で消えたんですよ。
祖母が生きているときに「本当は父に姓を変更してもらいたかった」と何度も言っていたのを覚えています。
夫婦別姓があれば、最低でも今でもその姓が残っているということになりますね。そう考えると、家名を守るためにも夫婦別姓は必須ということになります。
ユリ
今思えばですが、私の周囲の女性たちには皆「男きょうだい」がいました。
実家の名前を心配する必要もなく、継承を期待された経験もなかったんだろうなと思います。
姉妹だけの環境で育った女性でも、父親が次男、三男などの場合は、名前にこだわりが薄い人が多い気がします。あくまで一般論ですが。
ヨス
その傾向は実際にありそうですね。
人間って、深刻じゃないと自分問題としてとらえられませんから。
ユリさんがそこまでして姓を継承したいと望む理由はなんでしょうか?
ユリ
私の実家は、名家ではなく、大した由緒もありません。親から引き継ぐような家業もありません。
名字も平凡です。残念ながら他人様にとっては、なんの価値もない家だと思います(笑)。
でも例えば、親の形見の品として、Aさんは高級時計を持っていて、Bさんは擦り切れたハンカチを持っていたとします。
古いハンカチなんてリサイクルショップでも引き取ってもらえないでしょう。
それでもBさんにとっては高級時計以上の価値がある場合もあります。それを価値がないから捨てろ諦めろ、とは他人が言えることではありません。
私の場合、寂しそうな父の姿を見ると、亡き祖父や父のためにも実家の名前を継ぎたいという思いが日々強くなっています。
ヨス
家柄というのは関係ないと思いますよ。
あと、家の名前の価値に関しても、その姓の希少性は関係ないですよね。
ユリ
ありがとうございます。
「継承したい姓すら継承できない」という問題が浮き彫りに
ヨス
「家族を守る」という目的で、政府が「夫婦が同じ姓にする」ということに焦点を合わせるあまり、「過去から継承された姓を守る」という、もう一つの軸が見えてない気がしますね。
今回のお話を聞いていると、「夫婦の姓をどうするか」というのは横軸(時間軸が同じ)で、「継承してきた姓をどうするのか」というのが縦軸に思えてきました。
この両方を解決し、本当の意味で家族を守るために、姓を守るためには、希望する人は自由に自分の姓を継承できるということが一番大切だと思います。
今の法律では「継承したい姓すら継承できない」という問題が浮き彫りになっていますから。
ユリ
私もそう思います。養子という制度を使うには親の力を頼らなくてはなりません。
親に頼らなくても、子ども本人の意志で実家の姓を継げる制度、離婚しなくても姓を継げる制度を待ち望んでいます。
ヨス
本当にわたしもそう思います。
わたしも夫婦別姓を望んでいて、望んでいる理由は ユリ さんと違いますが、いろんな立場の、いろんな考えがあるんだなと再認識できました。
今回は忙しい中、インタビューさせていただきありがとうございます!
追記: 同じような悩みのある方のお声を募集しています
ユリさんも関わっているサイト「実家の名前を継承したい姉妹の会」で、同じようなお悩みで苦しんでいる方のお声を募集しております。
困っていらっしゃる状況を具体的に教えてくだされば、代わって国会議員にお届けしてくださるようです。
本当に困っている人自らが声を挙げる以外に解決する方法はありません。
ご協力よろしくお願いします。
ユリさんとはわたしが夫婦別姓をやっているという記事が元で知り合いました。
わたしの記事は非常に多くの方に読まれているので、夫婦別姓を求めている方からのいろんな意見を耳にします。
今回のユリさんのご意見は、知りうる中でも最も切実ではないかと思い、今回のインタビューになりました。
「家族がバラバラになるから夫婦別姓を認めない」と言っている間に、継承したい姓が消滅の危機にあるという現実に政府の方々には気づいていただきたいです。
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